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津地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決

三重県伊勢市俣一丁目一七番一七号

原告

山本成九

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

三重県伊勢市岩渕一丁目二番二四号

被告

伊勢税務署長 宇波弘貴

右被告指定代理人

仲山孝雄

外七名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対して平成元年七月六日付でした昭和六三年分の所得税の更正のうち、課税総所得金額五九七万七二一〇円、納付すべき税額二〇一万七五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、昭和六三年分の所得税について確定申告をした原告に対し、被告が原告の貸付利息収入金額を同年分の雑所得金額に加算して所得税更正処分をしたところ、原告が被告に対し、右貸付金は同年分において貸倒損失として必要経費に算入すべきである等と主張して、所得税更正及び重加算税賦課決定の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、伊勢市及び松阪市で、同伴旅館業、不動産賃貸業を営むほか、有限会社太陽ビル(不動産賃貸業)、三信興業有限会社(金融業・不動産仲介業)及び有限会社スター観光(ホテル経営、ただし休業中)の役員をしている者である。

2  原告は、昭和五六年ころから、茶道具等の販売業を営む株式会社陶亜(以下「陶亜」という。)に対し、証書及び手形割引による貸付を行っており、これにより、昭和六三年一〇月三一日現在において、左記(一)の貸付金銭高五四〇〇万円及び左記(二)の一三〇〇万円を含む手形割引による貸付金残高四五六八万二〇〇〇円の債権を有していた(以下、左記(一)及び(二)の合計額六七〇〇万円の債権を「本件債権」という。本件債権が昭和六三年分において貸倒損失と認められるか、また、本件債権が昭和六三年一二月三一日までに消滅したものといえるかが、本件の争点である)。

(一) 陶亜、同社代表取締役田中瑞哉(以下「田中」という。)及び同社専務取締役であった岡村信宏(以下「岡村」という。)の三名を連帯債務者とする(証書上は連帯債務者であるが、陶亜の事業上の債務を田中と岡村が連帯して保証する趣旨で債務者となったものである。)昭和六二年二月六日付債務承認並びに弁済契約公正証書に基づく一億円の貸付金元本の未回収残高五四〇〇万円。

(二) 昭和六三年四月三〇日及び同年五月五日に原告が陶亜から割り引いた訴外山田昭三郎(以下「山田」という。)振出の約束手形七通、額面合計金額一三〇〇万円。

3  陶亜は、昭和六三年一〇月三一日付で津地方裁判所松阪支部に自己破産の申立てをし、同年一二月二三日に破産宣告を受けた。

田中は、平成元年七月二五日に死亡した。岡村は、昭和六三年一〇月五日に絵画・美術品販売を営む有限会社和運堂(平成元年八月三一日に有限会社三重和運堂に称号変更した。以下「和運堂」という。)を設立し、その代表取締役に就任した。

また、右約束手形の振出人である山田は、昭和六三年一一月に銀行取引停止処分を受けた。

4  原告は、昭和六三年分の所得税について、平成元年三月一五日に別表「課税経過表」記載のとおり確定申告をしたが、被告は原告に対し、平成元年七月六日付で同表記載のとおり更正及び重加算税の賦課決定をした(以下、これらの処分を「本件課税処分」という)。

原告は被告に対し異議を申し立てたところ、被告は平成二年一月八日付で異議申立てを棄却する決定をしたので、原告は、国税不服審判所長に対し審査請求をした。国税不服審判所長は平成三年二月一四日付で審査請求を棄却する裁決をし、原告は同年二月一九日に裁決書謄本の送達を受けた。

5  被告の更正のうち、前記2項に記載した陶亜に対する貸付金の貸付利息収入金額を昭和六三年分の雑所得の金額に加算したこと及びこれにより算出される金額を除いて、右更正における金額に当事者間に争いはない。

また、右貸付利息収入があるとすれば、その金額は計算上、被告が主張する四三七一万四八一三円となることも当事者間に争いがない。

二  争点

本件の争点は、昭和六三年分の所得に関し、本件債権を貸倒損失として必要経費に算入することができるか否か、また、利息制限法による制限を超過した利息の元本充当により本件債権が消滅したか否かである。

三  争点に対する当事者の主張

1  原告

(一) 本件債権の貸倒れ

(1) 事実上の債権回収の不能

債務者である陶亜及び手形振出人である山田は昭和六三年一〇月三一日の時点において全くの無資力であり、原告の債権は回収不能であることが明らかであった。

連帯保証人の岡村は、土地建物を所有していたが、これにはその価額を上回る根抵当権が設定されている外、仮差押えがされていた。

また、同じく連帯保証人である田中の所有不動産にも多数の根抵当権が設定されており、強制執行による債権回収の見込みがないことは明らかであった。

(2) 債権放棄

本件債権のうち証書貸付分は、公正証書において陶亜、田中及び岡村が連帯債務者と記載されているが、その実質は陶亜を債務者とし、田中及び岡村を連帯保証人とするものであった。

原告は、昭和六三年一〇月三〇日または三一日、岡村から陶亜が自己破産の申立てをしたこと並びに前項記載のような陶亜、田中及び岡村の資産状況等を聞き、本件債権の回収は不可能と判断して、陶亜の代理人である岡村に対し、口頭で本件債権の全部を放棄することを告げた。この債権放棄の意思表示は田中にも到達した。

(3) 貸倒損失の必要経費算入

本件債権の利息収入が雑所得となるものであるとしても、本件債権は昭和六三年に全額について貸倒れとなったものであるから、同年分の雑所得金額の計算上、本件債権額を雑所得の金額の限度で貸倒損失として必要経費に算入すべきである。

そうすると、雑所得金額は零円となり、総所得金額は五九七万七二一〇円、納付すべき税額は二〇一万七五〇〇円となるから、本件更正のうちこれを超える部分及び重加算税賦課決定は取り消されなければならない。

(二) 制限超過利息の元本充当による本件債権の消滅

原告が陶亜から受けとった利息等は利息制限法の制限を超過するものであったところ、昭和六三年中に、債務者側により制限超過利息の元本充当による再計算がされ、その結果本件債権が消滅している旨債権者に告知されたことにより、昭和六三年中の陶亜から原告に対する利息支払の事実は遡って消滅したものである。

2  被告

(一) 所得税法上、未回収貸付金を貸倒損失として必要経費に算入することができるのは、〈1〉債権が法律上消滅したとき(債務免除の場合は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、債務免除を書面で通知した金額)や、〈2〉債務者の資産状況、支払能力等からみて貸金等の全額が回収できないことが明らかになった場合である(所得税法五一条四項、所得税基本通達五一-一一及び五一-一二)。そして、連帯債務契約の場合は、債務者に対する債権の回収が不能となったというためには、債務者各自に対する債権の回収がすべて不能となることが必要である。

(二) 陶亜、田中及び岡村に対する債権について

(1) 債権放棄が認められないこと

原告が連帯債務者らに対して、債権放棄の意思表示をした事実はない。仮に原告の主張にしたがっても、陶亜及びその代理人である波多野弁護士に債務免除額を書面で通知していない。

むしろ、原告は、平成元年になってからも、岡村に対して本件債権の請求をしたり、和運堂から本件債権の回収を図ったり、本件債権回収のために陶亜の債権を譲り受けたりしていたものである。

(2) 事実上の回収不能が認められないこと

昭和六三年中には、陶亜は未だ破産手続が継続中であり(債権届出期間の末日は平成元年一月二一日)、債権の一部については配当手続による回収の可能性が存在していたというべきであるから、昭和六三年一二月三一日までに原告の債権全額が明らかに回収できない状態になったとは認められない。

また、連帯債務者である岡村は昭和六三年当時、資産の保有もあり、会社役員として相当の収入を得ており、弁済の能力が全くないとは到底認められない。同人の所有する松阪市光町二番四所在の土地建物には、仮差押登記、根抵当権設定登記がなされていたが、これらによる換価処分等がなされた事実はない。単に右各登記がなされていることを理由として右土地建物の処分代金の一部を本件連帯債務の弁済に充てることが不可能であると認めることができないのは明らかである。

更に、連帯債務者である田中も、茶道具の販売業を個人で再開していることが認められ、支払能力が全くないとはいえない。

以上のように、いずれの連帯債務者についても、債務者の資産状況、支払能力等からみて貸金等の全額が回収できないことが明らかになったものとは認められないから、本件債権を貸倒損失と認めることはできない。

(三) 山田に対する手形債権について

約束手形振出人である山田は、同年一一月に銀行取引停止処分を受けているが、それだけで不渡手形債権一三〇〇万円について債権の回収が不能になったとはいえず、手形振出人に対する手形債務の取立てが不可能になったことに関する具体的な原告の主張立証はない。

(四) よって、原告が貸倒損失があったと主張する本件債権は、法律的にも、経済実質的にも、貸倒損失として計上すべき要件を備えていないことが明らかであり、これを貸倒損失として計上しなかった被告の本件更正処分は適法である。

(五) 制限超過利息の元本充当による本件債権の消滅について

制限超過利息といえども、当事者間の約束に基づいて利息として収受され、元本の弁済に充当されたものとして処理されておらず元本が残存するものとして取り扱われている場合には、収受した利息の全額が所得として課税の対象となる。

本件においては、利息制限法所定の利率を超える高金利契約が締結され、約定どおりの利息が支払われていたところ、昭和六三年中に、制限超過利息を元本の弁済に充当する処理をした事実は認められない。

よって、昭和六三年分の原告の雑所得の計算に当たり、制限超過利息が元本に弁済充当されたものとして取り扱うべきものではなく、被告の処分は適法である。

(六) 重加算税の賦課決定処分の適法性

以上のとおり、本件更正処分は適法であるところ、原告は、雑所得に該当する受取利息等があることを知りながら、これを除外することにより真実の所得を隠蔽し、所得税の金額を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告を提出した。

これは、国税の課税標準の基礎となるべき事実の一部を隠蔽し、その隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していた場合(国税通則法六八条一項)に当たるから、原告に重加算税を課したことは適法である。

3  原告の反論

原告は、陶亜の破産申立て後、岡村、田中に対して請求をしていないし、支払も受けていない。和運堂への協力は本件債権の回収のためにしたものではなく、本件債権を放棄したからこそ和運堂による岡村らの事業の再建に協力したものであるし、原告が陶亜の債権を譲り受けた事実もない。原告が世話をした商品の売上利益の一部を紹介手数料の趣旨で受け取ったことはあるが、本件債権とは関係がない。

第三争点に対する判断

一  債権放棄について

1  乙第五号証並びに証人波多野弘、同神保攝朗及び同岡村信宏の各証言によれば、陶亜の自己破産申立代理人である波多野弁護士は、昭和六三年一〇月三一日の破産申立て前後に原告から債権放棄の意思表示を受けていないし、原告が本件債権を放棄する等の申し入れを間接的にも聞いていないことが認められる。

2  これに対し、原告は、昭和六三年一〇月三一日ころに陶亜の本件債権に関する代理人である岡村に対し、本件債権を放棄することを口頭で伝え、この意思表示は田中にも到達したと主張し、原告本人は、岡村から陶亜が田中の放漫経営によって倒産した等と説明され、昭和六三年一〇月三一日ころ、岡村、神保、岡田同席の場で岡村に対し、債権回収の見込みがないので放棄したいと申し出たと供述する。

しかしながら、証人岡村及び同神保はこれに明らかに反する証言をしており、以下に検討するところを併せ考慮すると、陶亜に対し本件債権を放棄したことに関する原告本人の供述はにわかに信用することができない。

(一) 原告が昭和六三年一〇月三一日ころに放棄したと主張する債権が本件債権のみであるのか、陶亜に対する全部の債権であるのか判然としないが、原告本人の供述からすると、債権の全部を放棄したと主張するものと解される。

(二)(1) 後記各項所掲の証拠によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 甲第二八号証の一・二、乙第九ないし第一二号証、第一三号証の五ないし八によれば、昭和六三年一二月ころ、原告の陶亜に対する手形割引による債権のうち、同月三一日支払期日の株式会社万楽堂振出の手形が不渡りになるとの連絡が岡村にあったことから、同社代表者の田中健哉、原告及び和運堂の間でその手形債権合計一〇一〇万円の債務の返済方法が協議され、平成元年一月一五日に原告と万楽堂との間で手形債務履行契約書が作成されたこと、これらに基づいて、以後万楽堂の商品を和運堂が預かって販売し、その販売代金を原告に交付するという方法で弁済が行われ、さらに商品が売れなかった時の保証として交付された万楽堂振出の小切手によって原告が支払を受けたことが認められる。

〈2〉 乙第一六号証、第一七号証の一ないし一三、第一八号証、原告本人尋問の結果(但し、以下の認定に反する原告本人の供述はその余の各証拠に照らし採用できない。)によれば、昭和六三年一一月ころ、岡村及び原告が古谷香茗園の代表者である古谷秀樹及びその息子である古谷芳樹に会い、原告が古谷香茗園振出の手形を示したこと、古谷芳樹らは原告が陶亜の大口の債権者であり、陶亜の古谷香茗園に対する債権が原告に代物弁済として譲渡されたと説明を受けたこと、原告が昭和六三年一一月三〇日に破産手続外で陶亜の古谷香茗園に対する債権を譲り受けたこと、古谷香茗園らと原告の約定に基づいて、古谷香茗園が和運堂からの仕入品について販売金額の一〇パーセントを上乗せして支払い、原告がこの上乗せ分を受領していることが認められる。

〈3〉 乙第四、第八号証、証人岡村及び同神保の証言によれば、平成元年になってから、原告が岡村に本件債権の証書貸付金の四〇パーセントを支払う旨の念書を求めるなど、本件債権の請求をしたことが認められる。

〈4〉 甲第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一・二、乙第四、第八号証、証人岡村及び同神保の証言並びに弁論の全趣旨によれば、昭和六三年末ころ岡村は、陶亜の営業を引き継いで和運堂の営業を行うことを画策しており、和運堂が原告を代表取締役とする株式会社として原告の資産援助を受けることを考えていたこと、原告もこれに賛同し、資金の供与をするとともに和運堂の関与する営業活動から利益を得ていたが、岡村から代表取締役の報酬を出さないと言われたこと等から岡村との関係が悪化し、平成元年二月ころには協力関係が解消したことが認められる。

(2) 以上に認定した事実を総合すれば、東亜に対する債権の回収が困難であり、原告が割り引いた本件債権の外の手形について不渡りにせず回収をするためもあって、陶亜の営業を引き継いだ和運堂への協力をして、これによって原告が実質的に昭和六三年一一月から平成元年にかけて陶亜に対する債権の一部の回収を図ったものであり、これらの回収ができ、かつ岡村との協力関係が続いていた間は本件債権を請求しない状態をとっていたが、岡村との関係が悪化した後は、岡村に対し本件債権の請求をしたものと推認される。

(3) また、甲第一七号証、乙第一号証、証人久保田廣志の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は審査請求等を含めて本訴第一三回口頭弁論期日に至るまで明確に債権を放棄する旨の意思表示をした事実を主張していなかったことが認められる。

(三) 以上検討したところによれば、原告が債権放棄と相容れない行動をとっていたものとみられ、債権放棄をしたとする原告の供述はにわかに信用できない。

3(一)  原告は、陶亜の自己破産申立書に原告の債権が記載されなかったこと及び原告が破産債権の届出をしなかったことは、原告が債権放棄をしたことの証左であると主張する。

(二)  しかし、前記1項のとおり、破産申立代理人である波多野弁護士が原告の債権放棄を知った事実は認められない。かえって、甲第八号証、証人岡村及び同波多野の証言並びに原告本人尋問の結果(但し、以下の認定に反する部分はその余の各証拠に照らし採用できない。)によれば、原告及び陶亜は、従来から陶亜に対する貸付金債権について表に原告の名前が出ないようにしており、これによる雑所得を原告が経営するホテルの架空売上に計上する等していたこと、陶亜の帳簿上は田中個人の借入れによる会社に対する債権として記載していたこと、陶亜の破産申立てにおいても、右帳簿の記載と田中の申し出に基づいて、原告を債権者とする債権が記載されなかったものであると認められる。

(三)  また、破産債権の届出をしないことが必ずしも債権放棄を意味しないことは明らかである。そして、前記のとおり、原告の陶亜に対する債権は表に出さない形での処理が続けられており、原告が破産手続外での対処を考えていたと推認されること等を考慮すると、本件において、原告が破産債権の届出をしなかった事実をもって本件債権の放棄と認めることはできない。

(四)  したがって、原告の右主張は採用できない。

4  右1ないし3で検討したところによれば、原告が陶亜に対する本件債権を放棄したとの原告の供述を採用することはできず、他に債権放棄を認めるべき証拠は存しないから、原告が昭和六三年中に本件債権を放棄したとの事実は認めることができない。

二  事実上の回収不能について

1(一)  陶亜に関しては、昭和六三年中に破産手続が開始されており、本件債権の回収が困難であったということができる。しかし、所得税法は貸金債権に評価損をたてることを認めておらず、事実上の回収不能による貸倒損失は債権の全額について回収が不能であることが明らかな場合に例外的に認められる措置である。したがって、単に破産手続が開始されたというだけでは足りず、破産手続の進行により配当を受けられないことが明らかになるか、当該債権の回収が全部について見込みのない状態であることが明らかでなければならない。

(二)  昭和六三年中は、破産債権の届出期間中であるから、手続的には、届け出をして破産財団から配当を受ける可能性があったといえる。

また、陶亜の資産状況については、前記一2(二)(1)〈1〉及び〈2〉項記載のとおり、原告が陶亜の古谷香茗園や万楽堂に対する債権を譲り受け、事実上これらからの収益を取得していることが認められる。これは、陶亜が昭和六三年中に有していた資産から、事実上、一部債権の回収が客観的に可能な状況であったことを窺わせるものである。

(三)  以上によれば、昭和六三年において、陶亜から本件債権の全額について債権を回収することが明らかに不可能だったと認めることはできない。

2  また、連帯債務者(陶亜の事実上の債務を同社役員である田中と岡村が連帯して保証する趣旨で連帯債務の法形式を選択したものと認められる。)であった田中に関しては、個人破産はしておらず、甲第七号証、証人岡村及び同神保の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、田中は平成元年一月ころから個人で茶道具の販売業を再開したこと、平成元年に入ってからも、陶亜において負った債務弁済の意思を示していたことが認められ、このような事実からすれば、直ちに昭和六三年当時全く無資力で本件債権の全額について回収の見込みがなかったと認めることはできず、他に同人からの債権の回収の見込みが全くなかったことを認めるに足りる証拠はない。

3  同じく岡村に関しては、昭和六三年一〇月に和運堂を設立して営業活動を行っていることは当事者間に争いがないところ、証人岡村の証言及び原告本人尋問の結果によれば、和運堂は、当初原告ないし同人の経営する三信興業株式会社から経営資金を借り入れる等したが、右借入金については平成元年に全て返済したことが認められる。このような事実からすれば、岡村についても、昭和六三年においてその支払能力等からみて、本件債権のうち証書貸付分の全額が回収不能であることが明らかであったということはできない。

4  更に、本件債権のうち手形割引分一三〇〇万円の債権について、手形振出人である山田が昭和六三年一一月に銀行取引停止処分を受けたことは当事者間に争いがない。しかし、右の事実のみでは、当然には右債権の全額について取立てが不可能になったということはできないところ、本件全記録に照らしても、山田に対する手形債務の全額について取立てが不可能であったと認めるべき証拠はない。

5  以上に検討したところによれば、昭和六三年において、本件債権は、債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収不能であることが明らかになったものと認めることはできない。

三  利息制限法超過利息の元本充当について

1  本件債権は、当事者間において利息制限法による制限超過利息が定められ、その合意にしたがって弁済が行われてきたものであるところ、当該利息の元本充当の処理が行われず、当事者間で元本が存在するものとして利息が支払われている以上、債権者に利息金の収益が生じているのであるから、その収益は所得として課税の対象とされるものである。

2  原告は、岡村ないし陶亜の破産管財人が制限を超過する利息の元本充当による再計算をして、その結果が債権者に告知されたことにより、元本充当の処理がなされたものであると主張するようであるが、本件において、制限超過利息の元本充当の処理が行われたと認めることはできない。

すなわち、原告本人は、昭和六三年中に、破産管財人事務所の事務員砂野道男が原告に対し、利息制限法による制限を超えた利息が支払われていたものであるから債権の届出があっても否認する旨告げたと供述するが、そのような事実があったとしても、直ちに元本充当の処理が当事者間に行われたものとはいえず、原告本人が、その時利息の取りすぎであることは余りわからなかった等と供述していることからも、元本充当処理が行われたとは認めることができない。

また、原告が主張の根拠の一つとする甲第五号証については、岡村が一方的に作成した「公正証書に依る見解」と題するメモであること、作成者である岡村が田中に見せるために内部的なメモとして平成元年一月か二月に作成した旨述べている(乙第八号証、証人岡村の証言)ことに照らすと、昭和六三年中には原告がこれを田中に見せられたという原告の供述はにわかに採用できないし、仮にその頃原告がこれを田中から見せられたとしても、原告と陶亜との間の元本充当処理の事実を認めるに足りるものではなく、他に元本充当処理の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、本件債権が制限超過利息の元本充当処理によって消滅したという原告の主張は理由がない。

四  以上、一ないし三項に述べたところによれば、本件債権は昭和六三年分の貸倒損失として扱うべきものとはいえず、債権の消滅も認められないから、被告の本件課税処分は適法である。

五  重加算税賦課決定の適法性

以上に判示したところによれば、本件債権を貸倒損失とすることはできないものであるところ、甲第一二号証の一・二、乙第一号証、証人久保田廣志の証言によれば、原告は、昭和六三年分の確定申告において本件債権を含む貸付金利息を雑所得として申告しなかったこと、原告は陶亜に対する個人の貸付について顧問税理士である久保田税理士にも全く話していなかったこと、被告の行った調査に対しても、当初個人の貸付はないと述べていたことが認められる。

これらの事実に基づけば、原告は、雑所得に該当するべき貸付金の受取利息等があることを知りながら、あえてこれを除外して確定申告をなしたものというべきである。したがって、国税通則法六八条一項により、原告に重加算税を課した被告の処分は適法である。

六  結語

以上の次第で、被告のなした本件課税処分はいずれも適法であって原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 新堀亮一 裁判官 池町知佐子)

別表

課税経過表

〈省略〉

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